目指すは「対話」と「内省」の場づくり。AIを用いた1on1サポートツール『emochan』開発の裏側
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目指すは「対話」と「内省」の場づくり。AIを用いた1on1サポートツール『emochan』開発の裏側
金子 茉由
2024.01.18
この記事でわかること
『emochan』開発に至った背景とは
「感情」を起点にした『emochan』はどんなツール?その特徴とは
『emochan』の今後の展開について

コロナ禍を経てコミュニケーションのあり方が大きく変容するなか、ビジネス現場でも「対話」の機会がより重視されるようになりました。リモートワーク率の高いIT業界でも、マネジャーとメンバーとで定期的に「1on1」を実施する現場が増えてきています。

そこで今回は、AIを活用した1on1サポートツールである『emochan』に注目。同サービスを開発する株式会社KOU代表取締役の中村 真広氏に、開発の思いや実現したい世界などを伺いました。

中村 真広

株式会社KOU 代表取締役

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東京工業大学大学院建築学専攻修了。不動産デベロッパーの株式会社コスモスイニシア、ミュージアムデザイン事務所、環境系NPOを経て、2011年株式会社ツクルバを共同創業し、2019年東証グロース市場に上場。2023年10月に取締役を退任し、事業の一部をBa&Co株式会社として引き受ける。

株式会社KOUを創業し、2019年より代表取締役。世の中の会社をもっと幸せな居場所にするべく、組織内の対話を促進するツール『emochan』を展開。「場の力で人生を肯定できる世界をつくる」をミッションに掲げて、時代の兆しから新たな場をつくることがライフワーク。

emochan(エモチャン)

マネジャーによって属人的になりがちな面談内容や進行をサポートし、質の高い1on1運用を実現するツール。テーマ提案やチェックイン、音声入力機能のほかに、AIによる要約・分析・提案機能も備え、日本初の「2人の対話にリアルタイムで生成AIが伴走する1on1支援ツール」として注目を集めている。

『emochan』は対話のサポートを目的としたツール

金子 茉由

まず『emochan』の開発に至った背景を教えてください。

中村さん

当社はKOUという仲間内で感謝を伝え合うための「コミュニティコイン」アプリを展開する会社としてスタートしました。具体的には、スマホで簡単にコミュニティを作って、オリジナルのコインを仲間と一緒にやりとりできるサービスです。 のちにその事業は譲渡してしまったのですが、ユーザーにコミュニティコインの活用方法を聞いてみると、職場のコミュニケーションを円滑にする目的で利用されているケースが多かったんです。

中村さん

そこから着想を得て、現場のマネジメントに寄与できるツールを作りたいと考え、新サービスの開発に乗り出しました。それが、オンライン対話サポートツール『emochan』の原型となります。

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金子 茉由

なぜ「マネジメント」に寄与するツールを作りたいと考えたのでしょうか。

中村さん

僕自身、マネジメント経験がほとんどないなか、20代後半でツクルバという会社を起業したのですが、若手メンバーがマネジャーになる際に、必要なノウハウをうまく伝えられずに苦労したんです。その過程で、円滑なマネジメントを行うためには、マネジャーとメンバーの“パス”がうまくいっているかどうかが重要だと実感して。マネジャーとメンバーの対話がスムーズになり、滑らかな関係構築につながるツールがあったら、多くの現場がもっと便利になるんじゃないかと考えました。

金子 茉由

そのなかでも「1on1」に着目したのはなぜですか?

中村さん

そもそも僕たちが実現したいのは、企業内に限らず「対話する関係性」を生み出すことです。すべての対話の場を円滑にすることが最終的なゴールではあるのですが、まずはビジネス現場で多くの企業が課題を抱えている領域を探った結果、1on1のサポートが重要だという結論に至りました。

金子 茉由

1on1における課題にはどのようなものがありますか?

中村さん

コロナ禍でリモートワークが増えた結果、「流行りだからうちも導入しよう」と多くの企業が1on1を導入しました。しかし、形式的な1on1では組織に文化が浸透することはありません。また経営層やマネジメント層から「1on1をやろう」という声がけをしたものの、「何のために」「どうやるのか?」が曖昧で、やり方が属人的になっているという話もよく聞きます。

金子 茉由

なるほど、まずは1on1の導入段階で、関係者間で目的などをすり合わせる必要があるということですね。

中村さん

そうなんです。『emochan』はまさに1on1の“目的”を大切にしていて、「対話を支援するためのツール」と位置づけています。いわゆる進捗管理やタスク管理のために1on1を行いたいというケースでは、『emochan』はあまりフィットしないかもしれません。

生成AIの活用で、対話に集中できる環境が生まれる

金子 茉由

『emochan』は、「対話」のサポートを目的としたツールということですが、そのためにどんな機能を備えているのですか?

中村さん

たとえば、トピックの提案機能はマネジャーが話題づくりの準備にかける負担を削減することを目的としたもので、話したいトピックを選ぶだけですぐに対話を始められる機能です。トピックを選び、互いに感情を選んで、対話を始めることで、2人の視点を場に出したうえで対話を始めることができます。

中村さん

ほかにも、対話中にいつでも・何度でも、AIを使って分析・提案を受けられるサポート機能もあります。ファシリテーションが苦手なマネージャーでも、『emochan』で一定のフレームに従って対話をしていただければ、目的に沿った1on1が実践できるというメリットがあります。

金子 茉由

リアルタイムで生成AIが伴走する機能も特徴的だと伺いました。

中村さん

はい。2人だけの閉じた会話になりがちな1on1において、AIが第三者的な立場からサポートできる点も『emochan』の特徴です。たとえば、対話の内容をその場で自動的に要約するだけでなく、1on1で話した内容をもとに、対話がより深まる問いかけなどをAIが分析・提案します。

中村さん

また、対話の内容を踏まえてAIがネクストアクションを提案してくれますので、“話して終わり”ではなく、行動につながる1on1が実践できる点が特徴的です。

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金子 茉由

AI機能の搭載は当初から想定していたのですか?

中村さん

いいえ、まったく想定していませんでした(笑)。2023年に入り生成AIが加速度的に普及しはじめたころ、『emochan』はまだPMF前の状態なので、思い切って仕立て直すことに。そこから先のプロダクトのロードマップをすべて塗り替えて、AI化に舵を切りました。

金子 茉由

それは大きな方針転換でしたね。AI化を行ったことで、プロダクトのユーザーからはどのような反応がありましたか?

中村さん

「対話に集中できる状態を作ることができた」という声が一番印象的でした。1on1で大切なのは、目の前の相手とちゃんと向き合うことですよね。でも、要点を押さえておくためにメモを取るという作業を行うことで、耳から入る情報に集中できなくなってしまうことが問題だと思っていたんです。AIを使えば自動でテキスト化ができますので、より対話そのものに意識を向けることができるというメリットがあります。

金子 茉由

なるほど、本来の1on1の目的を実現できるということですね。

中村さん

そうですね。ちなみに、現在のAI系のソフトウェアは、基本的に「1人の人間対AI」という構造で成り立っているものがほとんどだと思います。一方で、『emochan』では「1人の人間対1人の人間」という関係性のなかに、AIを組み込んでいるんです。AIを介して、“3者”の関係構築ができる点が斬新なのではないかと考えています。

「感情」を切り口に、対話を生み出すしかけ

金子 茉由

『emochan』の開発にあたって、障壁となったことはありましたか?

中村さん

実は『emochan』はもともと現在のようなデジタルプロダクトではなく、『emochanカード』というアナログなカードゲームだったんです。8つの感情カードから、自分の今の気持ちを選び、仲間とシェアするチームメイキングツールでした。

中村さん

ところが、『emochanカード』をリリースした直後に、コロナがやってきて。オフラインで集まる機会がほぼゼロになっていく様子を見て、Webプロダクトに切り替えることに。SNSなどで試作版を配布しながら市場の反応を伺いつつ、試行錯誤を繰り返しました。

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現在の『emochan』の原型となった『emochanカード』
中村さん

それこそ初期のころは、自分自身の感情を表すZoomの背景を作ってみたりと、迷走する期間もありました(笑)。ただ徐々にユーザーの意見などから現場のニーズがつかめるようになり、「1on1を対話の場に変えるプロダクト」にシフトしていきました。

金子 茉由

現在の形に至るまでに、どのくらいの時間がかかったのでしょうか?

中村さん

2年ほどはもがき苦しんだ気がしますね。オンラインのみでコミュニケーションを取るチームにとって、どのようなツールがあればよりメンバー間の関係性が深まるのだろうか。そんなことを開発メンバーで毎日話し合いつづけました。

金子 茉由

世の中にはいくつかの1on1支援ツールがありますが、他のツールと『emochan』の違いを教えてください。

中村さん

大きく違うのが、「感情」を起点にしたツールだということです。「emo=エモ」という言葉に表現されているとおり、感情を切り口にして対話を生み出していく。たとえば『emochan』では、アイコンで自分自身の内側にある感情を表現できるようなしかけを施しているのですが、そのようなツールはあまりないのではないかと思います。

中村さん

さらに「支援するポイント」も、他のツールとは異なります。他のツールが、主に人事の方が1on1を管理したり、施策をスムーズに進めたりすることを支援しているのに対し、『emochan』は現場を支援することにフォーカスしているという特徴があります。

金子 茉由

現場にフォーカスしたツールであるというメリットは大きいですね。

中村さん

そうですね。実際に『emochan』は現場のチーム単位で導入してもらっているケースもあります。たとえば、ある不動産テック関連のお客様では、マネジメント経験の浅いチームリーダーたちに『emochan』を利用してもらったことで、メンバーとのコミュニケーションが円滑になったとの感想をいただいています。さらに同社では、当事者たちの許可を取ったうえで面談内容をチーム内でシェアする仕組みを作っていて、上の階層のマネジャーたちも1on1の内容を確認できるようにしているそうです。

「場」には人生を肯定する力がある

金子 茉由

『emochan』の今後の展開について教えてください。

中村さん

ツールの提供を通して現場の1on1を支援できるよう努めていますが、たとえば1on1施策自体の導入を検討している企業や、現場への浸透に悩んでいる企業に対しては、別のアプローチも必要です。そのような点で、組織開発や人事開発のコンサルティングを専門とするパートナーや、管理職研修のプログラムを提供するパートナーなどとの連携を強化しながら、包括的にサポートできる体制を整えていきたいですね。

中村さん

また、いずれは会社の垣根を超えた“キャリアコーチング”や“メンタリング”の領域にも幅を広げていくことも考えています。たとえばコーチとクライアント、社外メンターとメンタリング希望者をマッチングするプラットフォームを作っていけたらいいな、と。『emochan』がマッチングプラットフォームと対話ツールを合わせ持つサービスになれるよう、成長させていきたいですね。

金子 茉由

『emochan』のほかに、今後開発予定のツールはありますか?

中村さん

先日、個人向けの感情ジャーナリングツール「journalie」をローンチしました。その日の出来事や感じた事柄などを音声で吹き込むと、AIの力でまとまった日記に変換するツールです。しかも、ただ日記を生成するだけでなく、感情軸でAIが分析する機能を備えていて、たとえば「今日は“ワクワク”が●%を占めていて、こんなエピソードがありました」といった画像が表示されます。SNSなどでもシェアしやすいしかけを盛り込んでいるため、気軽に自分自身の感情をアウトプットするツールとして使ってもらえたら嬉しいですね。

中村さん

ただ、自分1人で内省を重ねていると、ときに行き詰まることもあるかと思います。そのような際に未来の『emochan』が提供するマッチングプラットフォームでコーチを探してセッションを受けることで、前を向いて進んでいくきっかけを得ることができるかもしれません。そういう意味で、『emochan』とジャーナリングツールが良い循環を生み出せるような世界観を作れれば面白いなと感じます。

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2024年1月にローンチされたジャーナリングツール「journalie」(英語版のみ)
金子 茉由

今後、KOUとしてどのような世界を目指していきたいと考えていますか?

中村さん

人が自律して生きることを、支援しつづけられる組織でありたいと思っています。僕はこれまで「場」に関するプラットフォームをたくさん作ってきましたが、その理由は、「場」には人生を肯定する力があると考えているからです。自分自身の人生に対して、自律的に生きる状態を、場の力で生み出していくこと。そのために、『emochan』やジャーナリングツールなどを通して対話や内省を促し、一人ひとりにとって大切な「場」を作るための後押しができたらいいですね。

ライター

金子 茉由
12年勤務した大手人材会社を退職後、フリーランスライターに転身。会社員時代からIT業界のクライアントとの相性がよく、さまざまなIT系企業の採用活動支援や、エンジニアのスキル開発・育成支援業務に携わってきた。いまの一番の関心ごとは、子ども向けプログラミング教育の未来について。
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