【RSA最優秀分析官に聞く】ペネトレーションテストサービスと脆弱性診断の必要性とは?
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【RSA最優秀分析官に聞く】ペネトレーションテストサービスと脆弱性診断の必要性とは?
岸 裕介
2024.04.09
この記事でわかること
ペネトレーションテストサービスと脆弱性診断の違い
ペネトレーションテストサービスの目的やサービス内容・重要性
セキュリティサービスの精度を高めるために行っている工夫

近年、高度化・複雑化した手法によるセキュリティインシデントが頻発しています。ひとたびインシデントが発生すると社会的信用の失墜や経済的損失につながるため、システムの脆弱性を調べるセキュリティ診断の重要性が高まっています。

そこで今回は、クラウドセキュリティ強化に力を入れており、次々と新たなセキュリティサービスを発表しているキヤノンITソリューションズ株式会社のサイバーセキュリティ技術開発本部にインタビュー。セキュリティアナリストを務め、同社のペネトレーションテストサービスの開発をリードした山田和政氏にお話しを伺いました。

ペネトレーションテストサービス

攻撃者視点でシステムへの侵入を試みて脆弱性を検査することで、サイバー攻撃に対するシステムの耐性を評価し、改善策と一緒に報告するサービスです。

山田 和政

キヤノンITソリューションズ株式会社 サイバーセキュリティ技術開発本部 サイバーセキュリティラボ セキュリティアナリスト

新たなセキュリティサービスを開発するため、海外の先進的な事例や業界標準、規制などを徹底的に習得。2017年からの度重なるインシデントへの対応が評価され、セキュリティ業界の権威であるRSA社より2019年のAPAC最優秀分析官として表彰されている。

ペネトレーションテストサービスとは?

岸 裕介

ペネトレーションテストサービスとはどのようなものですか?

山田さん

ペネトレーションテストサービスでは、実際に当社のセキュリティエンジニアがお客様のシステムに対して疑似的な攻撃を行います。そして、お客様のシステムに内在している脆弱性のうち、どの部分が本当に攻撃を受けてしまうリスクが高いのかを特定。それらの詳細なデータと改善策をお伝えするサービスです。

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岸 裕介

どのような経緯でこちらのサービスを始めたんですか?

山田さん

当社は元々セキュリティサービスとして、「マルウェア解析サービス」と「スレットハンティングサービス」を提供しており、それらと合わせてセキュリティ強度を高めていく目的で開発しました。

岸 裕介

マルウェア解析とネットワークスレットハンティングのサービスについて、教えてください。

山田さん

マルウェア解析は、コンピューターウイルスに感染してしまったあとに、そのウイルスの狙いや予防方法などを分析するサービスです。もう一方のネットワークスレットハンティングは、ネットワークを流れるデータのログから怪しい振る舞いを発見することです。

岸 裕介

マルウェア解析とネットワークスレットハンティングの違いは?

山田さん

ネットワークスレットハンティングは、お客様のシステム内のツールに溜め込まれた通信パケットを定期的に分析し、攻撃の有無や兆候、攻撃を受けるリスクなどを分析して、対策と一緒にお客様に報告します。マルウェア解析に比べると、攻撃を受ける前に対策がとれるサービスとなっています。

岸 裕介

なるほど。攻撃を受ける前と後でそれぞれ対策があるということですね。

山田さん

はい、今回のペネトレーションテストサービスは、スレットハンティングよりもさらに前の段階でセキュリティを強化して対策を講じるために開発されています。

岸 裕介

ペネトレーションサービスは各社で違いがありますか?

山田さん

当社も含めペネトレーションサービスの内容自体は、各社で大きな違いはないと考えています。ただ、当社の場合はクラウドセキュリティの領域で新しいサービスを拡充しているので、ペネトレーションサービスで全体をしっかり診断し、システムの脆弱性対策に最適なサービスをスムーズに導入することができます。

脆弱性診断は「健康診断」、ペネトレーションテストサービスは「精密検査」

岸 裕介

システムに対しての悪意ある攻撃には、どのような傾向がありますか?

山田さん

攻撃者は常にシステムの脆弱性を探しています。 新たな脆弱性を見つけたら、すぐにそれを自分たちの戦略に取り入れて、徹底的に攻撃に活かしてきます。

岸 裕介

攻撃者も学習しているということですね。それらを未然に防ぐ脆弱性診断とペネトレーションサービスにはどんな違いがありますか?

山田さん

脆弱性診断は、脆弱性の有無を診断することを最大の目的としたサービスです。一方、ペネトレーションテストサービスは、脆弱性を利用して攻撃者視点でシステムに侵入できるかを確認して、その結果と改善策を報告するサービスです。

岸 裕介

最初に脆弱性診断を行った上でペネトレーションテストサービスを行う方がいいのでしょうか?

山田さん

お客様の状況にもよると思いますが、その順番が一般的かと思います。

岸 裕介

ペネトレーションテストサービスだけを実施した場合は?

山田さん

ペネトレーションテストサービスだけで、システムの脆弱性を網羅することも技術的には可能です。しかし、システム全体のリスクを可視化しようとすると工数が大きくなってしまい、その分コストがかかってしまうのであまりおすすめできません。

岸 裕介

そうなると、脆弱性診断を先にやったほうが良さそうですね。

山田さん

ええ、脆弱性診断で脆弱性の洗い出しを行い、ペネトレーションテストサービスで見つかった脆弱性を深掘りしていくのが良いかもしれません。人間で例えるなら、「脆弱性診断は健康診断」、「ペネトレーションテストサービスは精密検査」といったご説明をしています。

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ペネトレーションテストサービスの進め方って?

岸 裕介

ペネトレーションテストサービスは、どのように進めていくのですか?

山田さん

お客様からシステムについての情報をヒアリングして、お客様も気づいていなかった脆弱な経路を一緒に見つけていきます。当社からお客様に対して経路を可視化するために、テストシナリオを作成することもあります。

岸 裕介

図のようなものを使ってお客様と認識をすり合わせることも?

山田さん

はい、文字や言葉だけでは正確に情報が伝わらない可能性があるので、お客様にご説明する際は、図にしてわかりやすくご説明させていただいております。

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岸 裕介

実際の診断ではどのようなケースが多いですか?

山田さん

マルウェア感染のパターンは現在日常的にスパムメールにマルウェアがついてばら撒かれているので、どのようなお客様でも直面する可能性が高いです。そのため、ご提案する機会が多いシナリオだと思います。

岸 裕介

最終的に内部から外部にデータを持ち出されるのは怖いですね。

山田さん

はい、データを持ち出されるというのは攻撃者にとって最終段階であり、何としてでも食い止める必要があります。実際の案件でも、お客様がコストをかけてでも弱点を潰したい箇所を突き詰めていくと、データを持ち出されるかどうかを確認したいというところに落ち着くケースが多いです。

岸 裕介

なるほど。その他にも脆弱性でよくあるケースがあれば教えてください。

山田さん

外部公開リソースからの侵入も十分ありえるケースです。例えば、Webアプリケーションが公開されていて、そのWebアプリケーションのバックエンドにクレジットカード情報などの個人情報がデータベースに詰まっているとします。

山田さん

Webアプリケーションの脆弱性がないか、もしあった場合はその脆弱性を悪用して内部に侵入可能なのかを調べます。もし、奥深くにあるクレジットカード情報にアクセスでき、クレジットカード情報などを持ち出すことができるのなら、その攻撃経路を断ち切らないといけないので、一緒に対策を考えていくようなケースです。

岸 裕介

ペネトレーションテストサービスの結果はどのように伝えているんですか?

山田さん

診断作業が終わりましたら、診断レポートという形でドキュメントを納品しております。その後、テストを実施したエンジニアと質疑応答しながら対応を考えていきたいお客様には、個別で最適なソリューションも提供しています。

岸 裕介

ツール任せで出た結果をお渡しするだけではないということですね。エンジニアにも質問できて安心感が高まりそうです。

攻撃を受けて初めてわかる多層防御の必要性

岸 裕介

攻撃者視点でセキュリティ対策を行うことにはどんなメリットがあるのですか?

山田さん

お客様の許可をいただいた上で、技術レベルの高い当社のエンジニアが、悪意を持った攻撃者と同じ手法や手順でお客様のセキュリティを本気で突破しようとします。攻撃者視点でシステムを診断できるため、お客様のシステムが直面しているリスクがわかりやすくなります。悪意を持った攻撃者に攻撃された結果がわかることが一番大きなメリットです。

岸 裕介

ペネトレーションテストサービスにおけるお客様の反応についても教えてください。

山田さん

正直なところ、自社システムの脆弱性がわかったとしても大きく驚かれるお客様はほとんどいらっしゃいません。なぜならご依頼される時点でシステムの課題は認識しており、複数のペネトレーションテストサービスを検討していることが多いからです。そのため、結果そのものよりも見つかった脆弱性をどのように改善しようかということに意識を向けられるお客様が多い印象です。

岸 裕介

寄せられる依頼や相談で多いのはどのようなケースですか?

山田さん

お客様が導入しているセキュリティ・セキュリティソリューション・ファイアウォールがきちんと機能しているのか確かめていただきたい、というご要望が多いように思います。例えば、お客様のセキュリティが一層の場合はその脆弱性がわかり、多層防御を検討することにつながります。やはり実際に攻撃を受けてみないと、多層防御の必要性が実感しにくいのだと思います。

“ドリームチーム”を構成したことによる悩み

岸 裕介

セキュリティサービスの精度を高めるための工夫についても教えてください。

山田さん

攻撃に特化した練習用の環境を社内に整備しており、そういった環境で日々技術を維持・開発しています。経験上、堅牢だと思うシステムの脆弱性を調べて、上手くいきそうな攻撃法が見つかったら試します。そして、上手くいく手法であれば、ペネトレーションテストの戦略に組み込んでいく。日々積みあげてきたセキュリティの知見があるからこそ、精度の高いペネトレーションテストサービスを提供できるのだと思います。

岸 裕介

自社のシステムの脆弱性を確かめることも?

山田さん

はい、自社開発システムの診断も行っていますが、自社サービスの診断にリソースを割いてお客様の依頼に対応できなくなってしまったら本末転倒です。そのため、基本は外部のお客様向けのサービスとして体制を整え、必要に応じて当社の内部システムをみるようにしています。

岸 裕介

ペネトレーションテストサービスの開発面で難しかったことはどんなことですか

山田さん

技術的なところは問題ありませんでしたが、人的なリソースが少し悩みどころでした。各チームの中核メンバーを集めて、いわば“ドリームチーム”としてペネトレーションテストチームを構成したため、各チームのリソース調整に苦労しました。既存のサービス品質も落とさないことを常に意識しています。

なんでも相談していただける窓口になることが理想の未来

岸 裕介

今後の展望についてお聞かせいただけますか?

山田さん

ビジネスを進めていく上でセキュリティの強化は重要ですが、セキュリティ強化に時間やお金を取られ過ぎては本末転倒だと考えています。適切なサービスの選択からツールの運用までを専門会社が行うことで、お客様はスムーズに本業であるビジネスに専念できるようになります。

山田さん

当社もクラウドセキュリティ戦略強化で、クラウド型ID管理サービス(IDaaS)「ID Entrance」の提供を開始するなどクラウドセキュリティの選択肢を増やしている最中です。そのため、お困りになってご相談に来られたお客様に良いサービスをご提案できるようになるはずです。そのような形でお客様がお困りになっていることを、なんでもご相談していただける窓口になっていきたいと考えております。

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ID Entrance 概要図

ライター

岸 裕介
大学卒業後、構成作家・フリーランスライターとして、幅広いメディア媒体に携わる。現在は採用関連のインタビュー記事や新卒採用パンフレットの制作に注力しながら、SaaS企業のマーケティングにも携わっている。いま一番関心があるのは、キャンプ場でワーケーションできるのかどうか。
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